大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和58年(レ)253号 判決 1985年4月30日

控訴人 一之瀬今朝吉

〈ほか一名〉

右控訴人両名訴訟代理人弁護士 原口紘一

同 高木敦子

被控訴人 松山保喬

〈ほか一名〉

右被控訴人両名訴訟代理人弁護士 大谷季義

同 楠瀬正淳

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らの請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文同旨

第二当事者の主張

一  主位的請求原因

1  被控訴人らは、別紙物件目録二記載の土地(以下「四番四七の土地」という。)を所有(持分各二分の一)し、控訴人らは、同目録一記載の土地(以下これを「四番四五の土地」このうち、同目録三記載の土地四三・一〇八平方メートルを「本件土地」といい、その余の土地部分を「四番四五の残地」という。)を所有(持分各二分の一)している。

2(一)(1) 訴外須崎憲治(以下「須崎」という。)は、もと一筆の土地であった東京都国立市東四丁目四番三六、四五ないし四七の土地を所有していた。

(2) 須崎は、昭和二七年ころから、右土地のうち四番三六、四六、四七の土地、同番四五の残地に各相当する部分を賃貸し(うち四番四五の残地に相当する部分の賃借人は控訴人一之瀬今朝吉、四番四七の土地に相当する部分の賃借人は訴外長田実(以下「長田」という。)であった。)、右賃借人らに対し本件土地を無償かつ無期限に通行の用に供していた。

(二) 須崎は、右土地をその賃借人に分筆譲渡する意向を有し、昭和五一年暮ころ及び同五二年二月一〇日前後、長田実の代理人である被控訴人松山保喬、控訴人一之瀬今朝吉らと右分筆譲渡後の本件土地の権利関係、建築確認のための処置等について協議したが、その際、右控訴人との間で、四番四五の土地が建築基準法に定める接道義務を充たすようにするため本件土地を控訴人らに譲渡するが、控訴人らは四番四七の土地の賃借人らに本件土地の従前どおりの通行使用を認める旨確認した。

(三) 須崎は、控訴人らに対し、昭和五二年二月八日、四番四五の残地を、同月二八日、四番四七の土地のために通行の用に供するとの負担付きで本件土地をそれぞれ売り渡した。

(四) 右(一)ないし(三)の事実によれば、須崎と控訴人らとの間で、昭和五二年二月二八日ころまでに、四番四七の土地を要役地、本件土地を承役地とする黙示の通行地役権設定契約が締結されたというべきである。

(五) 被控訴人らは、昭和五三年二月一九日、須崎から四番四七の土地を買受けるとともに、須崎の本件土地に対する右通行地役権を承継取得した。

3  被控訴人らと控訴人らは、昭和五三年五月二二日、控訴人らは被控訴人らが四番四七の土地(要役地)のため本件土地(承役地)を無制限に通行使用することを認める旨の通行地役権設定契約を締結した。

4  控訴人らは、昭和五三年九月、別紙物件目録添付図面のとおり本件土地の西南隅のロ、ハ、ニを順次結んだ直線上に高さ約一メートルのブロック塀及び同東側のイ、ヘの間に高さ一・二〇メートルの鉄扉(以下「本件ブロック塀及び鉄扉」という。)を設置して被控訴人らの通行を妨害し、また将来も妨害するおそれがある。

5  よって、被控訴人らは、通行地役権に基づき、控訴人らに対し、(1)被控訴人らが本件土地について四番四七の土地を要役地、本件土地を承役地とする通行地役権を有することの確認、(2)本件ブロック塀及び鉄扉の撤去、(3)将来にわたり被控訴人らの本件土地の通行を妨害しないことを求める。

二  主位的請求原因に対する認否

1  主位的請求原因1の事実は認める。

2(一)  同2(一)のうち、(1)の事実は認める。(2)のうち、本件土地が無償かつ無期限に通行の用に供されたとの点は否認し、その余の事実は認める。

(二) 同(二)のうち、昭和五二年二月一〇日前後に被控訴人ら主張の関係者の協議が行われたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(三) 同(三)の事実は否認する。控訴人らは昭和五二年二月八日須崎から本件土地を含む四番四五の土地を一括して買受けたものである。

(四) 同(四)は争う。

四番四七の土地はその西側を私道(同所四番三八の土地)に約一四メートル接するところ、右私道は建築基準法四二条一項三号に該当する道路であるから公路であり、このような場合、四番四七の土地のための本件土地の通行は必要不可欠とはいえないから、黙示の通行地役権設定契約の成立を認めるべきではない。

(五) 同(五)の事実は不知。

3  同3の事実は否認する。

4  同4のうち、被控訴人ら主張のとおり控訴人らが本件ブロック塀及び鉄扉を設置したことは認める。

三  予備的請求原因

1(一)  主位的請求原因1のとおり

(二) 別紙物件目録添付図面のとおり被控訴人ら所有の四番四七の土地は、他の土地によって囲繞せられて公路に通じない袋地となっている。

(三)(1) 主位的請求原因2(一)(1)のとおり

(2) 須崎は、控訴人らに対し、昭和五二年二月八日四番四五の残地を、同月二八日本件土地を売り渡し、また、被控訴人らに対し昭和五三年二月一九日四番四七の土地を売り渡した。その結果、控訴人ら所有の四番四七の土地は右(二)のとおり袋地となった。

(四) 四番四六の土地は訴外園田武が須崎から賃借しその家屋が敷地一杯に建築されているため囲繞地として通行することは不可能であるのに対し、本件土地は昭和二七年以来須崎から主位的請求原因2(一)(2)のとおり私道として無償かつ無期限に提供され、関係借地人らが通行使用してきたこと、また須崎から控訴人らに対し本件土地を売却するにあたり四番四七の土地等関係居住者の通行権の負担を前提としてその売買価格が決定された経緯もあるので、本件土地につき被控訴人らに囲繞地通行権を認めることは、信義則かつ公平の原則に合致し、また、四番四七の土地の囲繞地のため損害が最も少ない。

2  主位的請求原因4のとおり

3  よって、被控訴人は、民法二一三条二項又は同法二一〇条による囲繞地通行権に基づき、控訴人らに対し、(1)被控訴人らが本件土地を四番四七の土地の囲繞地として通行する権利を有することの確認、(2)本件ブロック塀及び鉄扉の撤去、(3)将来にわたり被控訴人らの本件土地の通行を妨害しないことを求める。

四  予備的請求原因に対する認否

1(一)  予備的請求原因1(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実は否認する。被控訴人ら所有の四番四七の土地は、建築基準法上の道路であり公路である西側の幅員四メートルの私道(同所四番三八の土地)に約一・四メートルにわたり接しているから袋地ではない。また、被控訴人らは、四番四七の土地上に建物を建築するため建築確認申請をした際、右西側私道を接道義務を充たす建築基準法上の道路として申請し、建築確認を得ており、現在まで右私道を継続して通行している。

(三)(1) 同(三)(1)の事実は認める。

(2) 同(2)のうち、須崎が昭和五三年二月一九日被控訴人らに四番四七の土地を売り渡したことは不知、その余の事実は否認する。

(四) 同(四)のうち、本件土地が昭和二七年以来須崎から通行の用に供されていたことは認めるが、その余の事実は否認する。

2  同2のうち、被控訴人ら主張のとおり控訴人らが本件ブロック塀及び鉄扉を設置したことは認める。

第三証拠《省略》

理由

一  主位的請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、被控訴人らの通行地役権の成否について検討する。

1  主位的請求原因2(一)(1)の事実及び須崎が昭和五二年二月以前は一筆の土地であった土地のうち四番三六、四六、四七の土地及び同番四五の残地に各相当する土地を賃貸し、その賃借人らのため本件土地を通行の用に供していたことはいずれも当事者間に争いがない。

2  《証拠省略》によれば次の事実を認めることができる。

(一)  訴外須崎蔵之助(須崎憲治の父親、昭和四七年ころ死亡)は、昭和二七年ころ前記土地を賃貸するに際し(うち四番三六に相当する土地の賃貸人は訴外福島栄一、同番四五の残地に相当する土地の賃借人は控訴人一之瀬今朝吉、同番四六に相当する土地の賃借人は訴外園田武、同番四七に相当する土地の賃借人は長田であった。)、右賃借人らのために東側公道(三小通り)に通じ、かつ、右各土地にいずれも隣接する本件土地を通路として開設し、以後本件土地の通行料は徴収することなく右賃借人らの通行の用に供していた。

(二)  長田は、昭和二七年一一月右須崎から四番四七に相当する土地を賃借し、同土地上に家屋を建築して居住した。その後、訴外田原正治及び同松本邦彦が右家屋を賃借して順次居住し、右松本が昭和五三年四月三〇日右家屋から退去するまで右土地は引継き右家屋居住者の用に供された。この間、右長田及び家屋賃借人らは、本件土地を右公道に出るための通路として特に制限を受けることなく通行してきた。(なお、被控訴人松山ウメカは昭和三八年七月三日長田から右家屋を買受けた。)

(三)  須崎憲治は、右賃貸にかかる各土地を賃借人らに分筆の上譲渡する意向を有し、昭和五二年一月ころから右福島、控訴人一之瀬今朝吉らと順次売買交渉を進め、更に同年二月一〇日ころ、長田の代理人である被控訴人松山保喬、右控訴人、右福島及び右園田と分筆譲渡の本件土地の処分等について協議した(右協議の事実は当事者間に争いがない。)。その際、右福島から本件土地によって四番四五の残地及び四七の土地の両地ともには建築基準法に定める接道義務を充たすことはできないから、四番四七の土地については西側私道を接道道路として建築確認を得ることとし、本件土地は四番四五の残地の接道義務を充たすため控訴人らに譲渡してはどうかという提案が出された。これに対し四番四七の土地の使用者の本件土地の通行について問題となったが、右控訴人が従前どおりの通行を認める旨言明したので、右控訴人以外の者において、須崎が本件土地を控訴人らに譲渡することを了承した。右協議後、右各土地は別紙物件目録添付図面のとおり分筆された。

(四)  須崎は、控訴人らに対し、昭和五二年二月八日四番四五の残地を代金七二八万円で、同月二八日本件土地を代金一七〇万円で売り渡した(右各土地の坪当たりの代金はほぼ同額である。)。

(五)  被控訴人らは、昭和五三年二月一九日、右須崎から四番四七の土地を代金七五〇万円で買受けた。その後、被控訴人松山保喬は、昭和五三年五月二二日、控訴人らとの間で、被控訴人らが本件土地を通行しうることを確認し、被控訴人らに対し右通行のための対価として同月二八日金二〇万円を交付し、さらに同年七月一一日中元の品を送付した。

《証拠判断省略》

3  右認定事実及び前記争いのない事実によれば、(1)本件土地は、須崎蔵之助が四番三六、四六、四七の土地及び四番四五の残地に各相当する土地の賃借人のため通路として開設し、右賃借人ら(殊に四番四七の土地の居住者)によって通行されてきたものであること、(2)本件土地が須崎憲治(右蔵之助の子)から控訴人らに対してのみ売却されたのは四番四五の土地の建築確認を得るための必要上された措置であり右措置と引換に、右売却に先立ち控訴人らが四番四七の土地の居住者らによる従前どおりの本件土地の通行を認めたことは明らかであり、これらの事実に加えて後記認定のとおり四番四七の土地に接する通路としては他に西側に私道があるのみであるが、右私道の通行には制限があるため、仮に本件土地につき四番四七の土地のため通行地役権が認められなければ、四番四七の土地の価値は著しく低下し、これは四番四七の借地人のみならず、地主の須崎にとっても著しい損失というべきであるから、須崎が四番四七の土地のための通行権の負担なしで本件土地を控訴人らに売却するものとは到底考えられない状況にあったことを考慮すると、本件土地につき売買契約が締結された昭和五二年二月二八日ころまでに、須崎と控訴人らとの間で、四番四七の土地を要役地、本件土地を承役地とする黙示の通行地役権設定契約が成立したものと考えるのが相当である。

これに対し、控訴人らは、四番四七の土地に接している西側私道(四番三八)は建築基準法四二条一項三号に該当する道路であって公路であるから、四番四七の土地の使用者にとって本件土地の通行は必要不可欠とはいえないから、このような場合に黙示の通行地役権設定契約の成立を認めるべきでない旨主張する。

《証拠省略》によれば、(1)四番四七の土地に接する通路としては本件土地の他には、西側に訴外宮路利勝他二一名が所有する幅員四メートルの私道(四番三八の土地)があるのみであるが、右私道は建築基準法四二条一項三号の道路に該当すること、(2)四番四七の土地は右私道に一四・五メートルにわたり接していること、(3)かつて四番四七の土地上の家屋居住者らが右私道を徒歩にて通行していた他、現在被控訴人らが四番四七の土地を自動車一台の駐車場として使っているが、右自動車は右私道を通行していることが認められる。

しかし、建築基準法上の道路であってもそれが私道である場合には、公衆が自由に通行しうる公路にあたるとは直ちにいえないと解される。また、《証拠省略》によれば右私道の共有者らは、従前右私道に車両の通行を認めない方針を採っており、被控訴人らは昭和五三年六月、確認書をもって右私道の所有者の自治体である日之出会から短期間の土盛工事中を除き自動車の通行を認めない等右私道の通行の制限を受け、また、右確認書作成後、被控訴人松山保喬から右私道の共有者らにその通行方を申し出たが、これを拒否された経緯があり、現在までの四番四七の土地上の家屋居住者の通行、被控訴人らの自動車の前記通行は事実上黙認されているにすぎないことが認められ、これに反する証拠はない。

これらの事実に照らせば、右私道が建築基準法上の道路に該当するからといって公路に該当するものと断定することはできないし、また、百歩譲って仮に右私道が公路に該当するとしても、本件土地が通路として開設された経緯、四番四七の土地の使用者による本件土地及び右私道の通行状況等に照らせば、須崎と控訴人らとの間における四番四七の土地を要役地、本件土地を承役地とする前記黙示の通行地役権設定契約の成立を妨げるものではないと解される。

そして、前記のとおり被控訴人らは、右要役地である四番四七の土地を須崎から買受けたから、民法二八一条一項により、須崎の右通行地役権を承継取得したこととなる。

三  主位的請求原因4のうち、控訴人らが本件土地上に本件ブロック塀及び鉄扉を設置したことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば控訴人らが将来にわたり本件土地の通行を妨害するおそれのあることが認められる。

四  以上の説示のとおり、被控訴人らの主位的請求は理由があり、これを認容した原判決は正当であるから(但し、原判決が主文で引用する別紙物件目録の要図は本件土地の北西隅の部分の記載について正確性を欠くが、同物件目録において本件土地の面積を四三・一〇八平方メートルと表示しているのであるから、これは本判決の物件目録三記載の土地を指すと解すべきである。)、本件控訴を棄却することとし、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 定塚孝司 裁判官 高田泰治 裁判官大鷹一郎は転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官 定塚孝司)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例